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どこまでも続く大草原。そこを、一台の小さな幌馬車が走っていました。
さっきまでとぎれとぎれに続いていた道は、もうなくなってしまい、そのかわり、草原を吹き抜けていく風が、かすかにせせらぎの音を運んできます。
そのとき、ずっとなり続けていた馬車の車輪のきしむ音がやみました。

「どうしたの父さん?」
「きっとこの辺だな。ネルソンの家から800m登ったところというんだが、もうそのくらい来たしなあ。ほら、川が見えるだろう?」
「どこ、父さん?」
でも見えるのは草が一面に茂った土手とその向こうの柳のこずえばかり。
あとはどこまでも続く緑の大草原が、風にそよいでどこまでも波立っています。
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「あそこにあるのは馬小屋かなあ。でも家はいったいどこにあるんだろう?おや?」
その時、男の人が近づいてきました。
「ジャック、静かに。あなたがハンソンさんかね?」
「ヤー」すっかり日焼けしているのに、真っ白に近いブロンドと空色の髪。この人が父さんが家を買った人、ハンソンさんだったのです。
「あんたがこの土地を売って西部に行きたがっていると聞いてきたんだが、ここの土地を譲ってくれる気はあるかい?」
「ヤー」男の人はうなづきました。

父さんも母さんもほっと一安心。やっと馬車から降りることができるのです。
「ローラ、メアリー、もうそこらを駆け回ってきてもいいですよ!」
母さんにそういわれると、もう駆け回りたくてうずうずしていたローラは一目散に馬車の車輪に足を懸け、ぴょんと飛び降りて土手に続く細い道を駆けていきます。
走ってきたローラは土手の上に立つと、立ち止まってああ〜っと深呼吸しました。
土手の下にはキラキラと光る小さな川があり、その向こうは柳の木立が続いています。お日様の光をいっぱいに浴びた草原、そしてさらさらと流れる水の音。

ローラは今度は小道伝いに土手に沿って下りて行きました。土手は一面に草が茂り、まるで壁のように急なのです。
坂道を下りきったところは少し広く開けていて、道はそのまま川岸へと段々になって降りていきます。そしてその反対側、土手のほうを見ると…。
土手にドア?!

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ローラが目を真ん丸にして土手についたドアについて考えていると、ドアの横で寝ていた大きな犬がふと顔を上げ、ローラのほうをじっと見つめています。
ローラは一目散に馬車のところへ飛んでいきました。

「それじゃハンソン、明日町に行って手続する。今夜はここで野宿するよ。」
しばらくして戻ってきた父さんはみんなにここに住むことにしたことを告げ、母さんと一緒に焚火の周りで晩御飯の準備を始めました。

「馬のペットとパティをハンソンさんの土地と、それから仔馬のバニーをハンソンさんの作物、牡牛と交換したんだ。外で寝るのも今日が最後だな。」
「明日からはまた家に住めるんだ!今度の家はこの土手の土の下にあるんだぞ、キャロライン」
「まあ、何も穴になんか住まなくたって…」
「なあに、冬でもきっと暖かいぞ。それに小麦の取入れまでの辛抱さ。そしたらいい家、上等な馬車、なんでも買えるさ。
ここは本当に小麦を育てるのにぴったりの土地なんだよ。良く肥えた平地、木も岩もないし。
いったいハンソンは何にてこずってあんな畑しか作らなかったんだろうなあ。日照りでもあったのか素人だったのか、ハンソンの小麦は痩せてて目方も軽いんだ。」

「まあ。でも本当に、雪がちらつく前に家に落ち着けるなんてありがたいですわ。」
みんな楽しそうに楽しい生活を思い描いていたけれど、ローラはずっとうつむいていました。
満天の星空の下、焚火の向こうでペットとパティ、バニーが楽しそうに草を食んでいます。自分たちが売られてしまったなんてちっとも知らないで。
ローラはその様子を見て、涙が溢れそうになりました。
父さんはそんなローラを抱き寄せ、優しく抱いてくれました。

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「父さん、どうしてもあの子たちをあげなくちゃいけなかったの…?」
「いいかい、こびんちゃん。ペットとパティは旅が大好きなんだ。畑を耕したりする仕事には向いてないんだよ。
ローラもペットとパティがここで辛い思いをするより、楽しく旅をしているほうがいいだろう?
それにハンソンさんの大きな牡牛で畑をを耕して小麦がどっさりとれれば、馬も新しい服も、なんでも買えるんだよ!」

でも今のローラには、ペットやパティ、バニーのほかに、欲しいものなんて何もおもいつきませんでした。

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プラム・クリークの土手で

第1話 土の中の不思議な家・前篇

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